ぽつん、と
広い教室に
ひとりのあたし。





かばんを見ると
差し入れに、と
持ってきたパンが
顔を覗かせていた。






折角買ってきたのに
もったいないなぁ、

なぁんて。





これ全部、
食べてしまおう。













け食いか…!


















それは4ヶ月前。


すばるに誘われて、
横山先輩の所属する
バスケ部の試合を
見に行った日。






横山先輩が試合をしてる

その隣の補欠ベンチで
もぐもぐと緊張感もなく
おにぎりを食べている
隣のクラスの彼に、

なんとなく惹かれて
しまったのが始まり。






「(…おおくらくん、だっけ…?)」





背が高いから
バスケ部なんだろうな、
とは思っていたけど

まさか補欠だったとは。





「なぁ、すばるー」

「なんやー?」

「あの人いっつも補欠?」



そういって彼を
指差すと、
すばるはさらっと

「あぁ大倉か。せやでせやで。」

だって。





「おにぎり食べてるよ。」

「あいつ普段から何かしら食ってんで。」


「だからおっきいんだ。」

「そんな憐れんだ目で見んな、」





ふたりで話してたら
横山先輩が嬉しそうに
こっちを見て手を振った。

点数が入ってるから
シュートでも入れたんやろ。







「で、大倉のこと気になんの?」

ふいにすばるが
そんなこと聞いてきて

「いやー…て何!」

「ぼーっとしすぎ」

「すばるは好きな人いんの?」

「話をそらすな」

「だって…」

「で?大倉は?」














「…んー…変な人。」





変な人だから
気になってしまう。

遠回しに伝えると
すばるはにっこり笑った。





「(見透かされてる…)」





…………






あっさりと
この恋愛感情を
見透かされた
おかげなのか

横山先輩とすばるの
協力によって、
うちと大倉くんは
すぐに友達になれた。




(たまには役に立つやん!)





が、この期に及んで
告白するタイミングを
間違えてしまったのか
(そう思いたい)

またまたあっさりと
フラレたあたし。





ここで冒頭に戻る。






かばんから覗く
大倉くんの為の
パン達は、

フラレたあたしを
慰めてくれる
唯一の友達だった。






「せっかく買ったのに。」

ぶつくさ言いながら
パンをどんどん口に
放り込んでいく。





「こんなに、ッ…おいしいのに。」


パンを目の前に
泣き出すあたし。





教室のドアが開いて
入ってきたすばるも
気にせんと、
うちは4つ目のパンに
手をつけた。







「やけ食いかいな、」

うちの泣き顔を見て
微笑むすばる。

少しは慰めろ、
このやろう!






「大倉くんはっ、うちだけ…じゃなくてッ、このパン‥達のっ、こともフッ…たんだよ!」


涙でうまくしゃべれない。
けどすばるはうちの前に
座って頷きながら聞いて
くれていた。





「よう頑張ったな、」

「うッ、ぐ…」

「あんま食うと太るぞ。」

「知らんわッ…」

「俺、太った女嫌や。」

「すばるにはッ、関係ないやんか…」









「なぁ、俺と付き合わへん?」






急な告白。
いきなりパンは喉を
通らなくなってしまった。




「な、ッ」

「付き合って、」

「、そッ…急すぎっ…」

「だって秘密にしとったもん。」





そういってにっこりと
微笑むすばる。

呆然とするうちの唇を
優しく触る。

「パン、ついてる。」







涙で濡れた頬は
いつしか赤く染まって、

教室を照らす夕日に
少し目が眩んだ。









「すばる…」

「ん?」

「…なんか、…ありが、と…」

「ん…、」










ふたりが赤く実るのは
それから4ヵ月後の話。






END.
――――――――――――――――――――
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