眼鏡の向こう側。
あなたの笑顔はどこか切なくて。

誰にも見せない素顔。
ふたりだけの秘密。








OPPO―











私がトッポに出会ったのはジャッキーの紹介がきっかけだった。

眼鏡と帽子、奇抜な色の服。
あまり笑わない。

見た目の明るさに反して、どこか暗い人という印象が私の脳裏に焼き付いていて。







「ねぇ、トッポ。」

「んー?」


その印象は今もあまり変わっていない。




「まだゲーム?」

「うん。」

「面白い?」

「うん。」

「ふーん。」

「……」



続かない会話に嫌気がさす一方。

この人は誰にも心を開かないのだろうか。
…いや、ジャッキーには開いてるか…。







「トッポさ、誰かに恋したことある?」

「それ必要な情報?」

「…別に、必要じゃないけど。」

「………。」

「必要じゃないと聞いちゃだめなの?」

「そんなん言うてへん。」

「じゃあ教えてよ。」






結局トッポが黙って、会話にならないのがオチだ。
そう。いつものこと。









かわいらしいグリーンのワーゲンバスの中、続くのは沈黙。

私が助手席から後ろに移ると、ほんの少しでも気にしてくれてるのか、トッポの目が一瞬だけ私を追った。



…来てくれればいいのに。







ピコピコとゲームから機械的な音が鳴る。
と、聞こえてきたのはクリアした時の音楽。




「よっしゃ」

「クリア?」

「そう、むっちゃ難しかってん、この面。」

「ふーん」

「嬉しいなぁ。」




トッポの後ろ姿はぴょこぴょこと嬉しさが溢れ出てて、私は思わず笑ってしまった。

こんなに感情出したトッポ見たの、初めてかも。








「…今、笑った?」

「ふふ、だってなんかかわいいんだもん。」

「か、かわいいて何やねん。」

「トッポが嬉しそうなの、初めて見た。」






そう言うとトッポは、少し目を泳がせて再び前に向き直る。

本当に、私には何も見せてくれない。









「ねぇ、トッポ。」

「なに。」

「こっち来て。」

「なんで。」

「お願い。」






しぶしぶと運転席から抜け出たトッポは私のいる後ろ側に移る。


「ここ座って。」


自分の隣をポンポンと叩くと、どさっと大きな音を立てて座ったトッポ。






「ねぇ、こっち向いて。」

「ん。」

向き直るけど私の目は見てくれない。

「目、見てよ。」

「嫌、や。」

「お願い。」

そのとき気付いたのは、トッポが私のお願いに弱いことで、

「ん。」

「キスしよっか。」

「え、なん…」

「お願い。」

そう言ってトッポの眼鏡を外し、頬を両手で包み込むと意外なことに彼は真っ直ぐ私を見つめてきた。







「ん、」

「…。」

自分からキス、なんて。
そんなキャラじゃないんだけどな。


唇を離すとトッポのふんわりした笑顔にドキッとしてしまった。






と、体がゆっくり倒れて彼が私の唇に再びキスをする。

今度は舌が絡むような深いキス。


「ん、ん…」

「んぅ、」



私の手の中からするりとこぼれ落ちる彼の眼鏡。

もう私の前では必要ないでしょ?






「んっ…」

「…、はぁ。」

こんなに幸せなのはなんでだろう。
目の前に好きな人がいて、何かが始まりそうな予感がしてて。


「…抱きたいねんけど。」

彼の欲求なんか聞くの初めてで。

「抱いてよ、はやく。」

私ってこんなに強気な女だったかな。
かわいくない、と自分で思っていると、耳元で聞こえた"かわいい"という囁き。

ねぇ、私の不安聞こえてた?












いつの間にか、ワーゲンバスの中はふたりの熱気が充満していて。
さっきまで沈黙が続いてたとは思えなくて。


「んっ…はぁ、はぁ…。」

「んっ、あんっ…はぁ…。」



ただ重なり合って、言葉なんてなく。

フィルターがなくなって、彼の気持ちが、本当の気持ちが伝わってくる。




少しだけ、色っぽく開いた彼の唇。
目を細めて眉間にシワを寄せる男らしい表情。

それが目の前にあるだけで私も本当の気持ち、言えそうな気がするの。






「はぁ…あっ、ねぇ…んっ」

「はぁ…はぁ、何…?」

ねぇ、トッポ。

「好き…好きなの、ん、あぁっ」

「んっ…はぁ、そんな…」

冗談なんかじゃない。

「んっ、あっ、そこだめっ…!」

「はぁ…ここ…?」




ただ快楽に溺れて、自分の恋愛感情も忘れ去る程の衝動に動かされて。





「く、あっ…はぁ、あかん。」

「あっ…ん、」

「はぁ……、はぁ、好き…やで。」




果てる前に耳の奥のほうで聞こえた告白に、嬉しさを表す間もなく、私は彼の背中を強く抱き寄せ爪を立てる。


「く…はぁ…、はぁ。」


ゆっくりと彼が離れて、繋げていた部分が外れると私は思わず彼に抱きついた。










「はぁ…トッポ。」

「ん…。」


顔を見上げるとそこにははにかんだ優しい笑顔。
眼鏡のない素顔。





「ん…」

嬉しさに微笑むと彼が私の肩に頭をもたげる。


「誰かに、甘えたことなんてないなぁ…。」


小さく呟いた声。



「私に甘えてよ、いっぱい。」



強く強く抱きしめてあげる。










瞳を覆うフィルターを外して、
ふたり裸のまま抱き合おう。

誰も知らない、ふたりだけの秘密。

周りなんかいらない、ふたりだけの秘密。








私と彼は恋に落ちた。









end.
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