幼なじみなんて決して
良いものなんかではない。

近過ぎると言うことは
嫌で嫌で仕方のないことで、
離れたくても離れられない
この関係が
どうしようもなく
鬱陶しいのだ。






ご近所物語は
確かに良い話だと思う。

実果子とツトムは
どう見てもお似合いだし、
なんかお洒落だし、
たまにケンカするけど
結局は仲がいい。

でも漫画だからね。







渋谷すばると幼なじみ
なんて聞いたらみんな

あのすばるくんとなんて
うらやましい

だなんて言うけど。

あのすばるくんて
どのすばるくんだよ。







「あ、屁ぇ出た。」

このすばるくんですか?







………………………………





思えば気がついたら
彼は家にいたのだ。

「さかなのほねって
 どうやってとるん。」




幼少期、彼の両親は
共働きで帰るのが遅く

お隣さんである私の母が
いつもすばるを親切にも
夕食に誘っていた。





私はそれが嫌だった。





大好きなアニメは
いつもすばるのせいで
見ることができなかった。

レンジャーって何だよ、
とか思いながら
学校では女の子の話題に
どうもついて行けず
男の子に混じっていた。





今でも思う、

私が女らしくなく
この年になっても
彼氏ができないのは
すばるのせいだ、と。










そんな私を彼は嘲笑った。

「お前元々女ちゃうやろ。」

大きな目の端に
深くシワを寄せて
バカにしたように笑うのだ。


「黙れ、ミクロマン。」
「誰がミクロマンやねん!」










所謂犬猿の仲とは
私たちのことだ。と。

私は声を大にして
言いたい。

全国ネットで発表してもいい。







「どこ触っとんねん。」

「でっかいケツ。」

「うるさいわ、セクハラ親父。」

「びっぐぴーち。」

「リアディゾンか。」






しかしこんな彼の
怖いところは
まさかの
モテると言うところ。






学校に行けば人気者。
同級生から可愛がられ。
後輩からも可愛がられ。
先輩からも可愛がられ。

私はそんな彼が気にくわない。






「今日一組のマドンナに
 告白されてもーた。」


そう言いながら
緊張感もなく
ヘラリと笑ったすばるに
苛立ちさえ覚える。


「オッケーすんの?」

「せーへんよ。」



すばるはいつも、そう。

こういう話をすると
ネコみたいにするりと
いなくなってしまうのだ。







「変なやつ。」







………………………………





「なぁなぁ、にょん。」

「にょん、って何。」

「好きな子できた。」




ある日いつの間にか
私のベッドに腰掛けた彼は
いつの間にかそんなことを
私にさらりと告げた。





へらへらといつもの顔。






そのとき私は悟ったのだ。

すばるは絶対私から離れない。
そんな安心感が嫌悪を
生み出していたのだと。


もしかしたら既に私は
漫画でありがちな
幼なじみに恋、なんて
展開に陥っているのだと。







「そ、そ、そうなんや!」

でも急な展開だったし、
好きな人が出来たなんて
告げられてから気付くなんて
本当に遅すぎた。


「協力してや?」

「あったり前田のクラッカー!」


わざとおちゃらけたら
なんだか切なくなってしまった。






幼なじみなんてやっぱり
良いものではないのだ。

近過ぎて大切なことが
見えなくなりがちで。


こんなに切ないのは
初めての経験だった。











「絶対協力してや。」

「うん、わかった。
 ミクロマンアピっとく。」

「ミクロマンて何やねん。」

「またの名を渋谷すばる。」

「うっさい、ちょっとは黙れ。」







私が実果子だったら。
彼がツトムだったら。








「…」

「…」


「俺、お前のこと好き。」









きっと素直じゃない実果子も
ツトムになら抱き付いて、


「…すばる…」

「協力してくれるんやろ?」


感動屋さんの実果子は
きっと嬉しくて泣くんだろう。


「っ、協力…する、」

「そらありがたいわ。」










そう有り得る展開じゃない。

ご近所物語も結局は漫画で。
実果子とツトムがくっつくのは
わかりやすい結果だ。




でも私、すごく好き。




やっぱり幼なじみは
そんなに悪くはないよ。








end.
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