鏡を見て溜め息。

丸い頬、小さな目、低い鼻。
この口も、この眉も、大嫌い。


精一杯のおめかしもどこか物足りなくて。

「あ、時間。」


輝くのは大好きな貴方から貰った、左手の薬指にある指輪だけ。













クテル。















家のチャイムが鳴る。
玄関前の鏡でひとふんばり、最後にまつげをビューラーで持ち上げる。




ドアを開けるとそこには大好きな貴方が立っていて、
、おはよ。」
「和也、おはよ。」


細い指なのにどこか頼りがいのある貴方の手に、自分のかわいくない手を重ねて、指を絡ませる。






「今日すっげー楽しみ。」

にこりとこちらを微笑む和也はかっこよくて、モノトーンでシンプルにまとめた服がよく似合う。

「あたしも、楽しみ。」

ひらひらと揺れるスカートから見える足には自信がなくて、もっとモデルさんみたいだったら和也に釣り合うのに。





「それではこちらへどうぞ。」

手が離れ、和也は助手席のドアを開けてあたしを車へ招く。

「ありがとう。」

シートに座るとドアが閉められて、小走りで和也が運転席に乗る。






車を運転する和也はまた一段とかっこいい。


、手ぇ。」




言われるがままに手を差し出すと重なる手、絡まる指。




「事故しないでよ?」
「するわけないじゃん。」
「わかんないじゃん。」
「大丈夫、危なくなったら離すから。」




だから、手ぇ繋いでて。なんて。

そんなこと言われたらドキドキが収まんないの、和也知ってる?






片手で運転しながら、和也はご機嫌。
あたしは窓の外を見ながら、ぎゅっと手を握る。


和也はこんなあたしのどこが好きなんだろう。
ちらりと和也を見ればかっこよくて、またドキドキしてしまった。







連れてこられたのはホテルの中にある、お洒落なバーで。


、今日の服似合ってる。」


なんて言う和也に微笑むものの、やっぱり自信なんてなくて。




こんなあたしがこんなとこに来て良かったのか、と。
出来るだけ大人しく上品にしてよう。







出されたカクテルはあたしの服と同じ色。

「かわいい…」
と呟くあたしに満足そうな和也。

「乾杯、」
「乾杯。」


カラン、と音を鳴らすグラス。
色っぽい和也に見とれるあたし。




口元からお酒が和也の喉を通ってくのがわかって、変な気分になってしまった。
まだお酒飲んでないのに。




小さく含んだカクテルは、
甘くてあたし好み。

「これおいしい。」

和也のほうを向くと

「でしょ?」

なんて首を傾げるものだから。
あたしはカクテルより和也に酔ってしまうような気がして、少し目を伏せた。










お酒が入って、そろそろ時間も時間で。
「でよっか、」
と立ち上がる和也に続く。

ふらりと体が揺れる。
和也の腕に体を寄せると、腰に回った腕がくすぐったい。






そのままホテルのエレベーターを上って、耳元で囁かれた言葉。

「今日の、すっげーかわいい。」




自信なんてないのに、くすぐったくて嬉しくて。
どうしてこんなあたしのこと、かわいいなんて言ってくれるの?





部屋に入って、火照った体を冷ます間もなくベッドに組み敷かれる。

大きくない胸に、少し気になるお腹。
絡まるのは自信のない足。



かわいい、綺麗、と唇を体に這わしていく和也。
触れられたところが熱を増していく。




酔いしれて、溶けて、とろりと思考回路が揺らぐ。





「あ、ん…あたし、かわいくない。」
「はぁ、かわいいって、お前は。」





体中、至る所が痺れて。
余裕なんてなくなって、和也しか見えない。






「その目も、鼻も、唇も、胸も、お腹も、お尻も、頭から足先までぜんぶ好き。」







しっかりと耳に聴こえた言葉に返せる余裕もなくなってしまって、それからは和也の挑発するような卑猥な言葉と、愛の言葉以外は聴こえなくなってしまった。



あたしの嫌いなとこも、和也は好きでいてくれてる。
そんな安心感と和也のもつ温もりがあたしを覆う。





「あんっ、も…だめぇ…」






力の抜けた体。重なる肌。
心地よさに眠りにつく。















目を覚ますと、目の前には和也の綺麗な顔。
形のいい唇にそっとキスをする。



和也といると、嫌いな自分も好きになれそうだよ。




再び目を閉じる。
もう少しだけ、和也を感じててもいい?







end
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