「大倉くん、寝過ぎ。」


「んー…さん?」

「ちゃんと授業聞きぃや。」

「寝ててもちゃんと頭入ってんねん。ほら、俺さ、聖徳太子やから。」

「絶対うそやん、大倉忠義やん。しかも聖徳太子関係あらへん。」

「てか今休み時間やろ、もーちょい寝かせてぇや。」

「まだ寝るん?!」



日常茶飯事やった。

あたしはクラスのうるさい委員長。
彼はのんびり大食い、人気者の大倉くん。


授業中、寝てばかりの彼を叩き起こして叱る、この"お決まり"は、クラスでも大好評で。




まぁ、基本的には大倉くん支援が圧倒的多数を占めてるんやけど。








「いーんちょー、うるさいー」

「うるさくない!」

「あんみんぼうがーい。」

「寝たあかんねんて。」

「…」(ぐー…)


「って、言うてるそばから寝るな!」(びしっ!)



「あいたー!!いーんちょーのチョップ痛いわー。」








野次馬たちの笑い声。
全然おもんないから!









昔からそうやった。
リーダー器質の目立ちたがり。
男っぽい性格。


小学生のときのテーマは
女子泣かす男子とりあえず撲滅。


女子からはヒーロー。
男子からは嫌われる対象で。







それが数年後、

さん、もっと女の子やったらかわいいのにな。」

なんて
好きな人に言われることになろうとは。







「べべ別にかわいいとか狙てへんから、あたしは。」


「へえ。モテへんやろ?」

「…だから何よ。」

「…ちゅーもまだやねんな、きっと。んふ、かーわいー。」




好きな人に恋愛対象としてみられない悲しさに、小学生のときからもっとかわいらしくしとくんやった、と後悔するのはよくあることで。




「うるさいわ、天パ!熊!でくのぼう!」




まぁそんなこと、絶対大倉くんには気付かれたくない。
恥ずかしすぎるし、きっとからかわれる。


大倉くんのこと恋愛対象として見てるなんて感づかれたらあたしの人生終了や。


考えただけて寒気がする。
さぶいぼ立つ。




さん酷いー!!」
「知らんっ」











チャイムが鳴り
本日最後の授業が始まる。

後ろから大倉くんを見ると、相変わらずの居眠りで。



寝顔かわいいな
背が高いのはよく寝るからだろうな
鼻すじ綺麗
よだれ垂れてる
腕長いな
顔ちっさいな


なんて、
思ってるより観察してる自分に恥ずかしくなった。





届かないような気がする、この想い。
届けたくもないけど。

届いたってきっと叶わない。
大きな壁が、ふたりの間にあるようで。







ふと大倉くんが目を覚まして、くるりとこちらを見る。


目があってドキ、と揺れる心臓。


見てたのがバレないようにと目をそらそうとした瞬間、大倉くんが微笑んだような気がして目が離せない。


あたしがそらす間もなく、大倉くんは前を向き再び眠りにつく。

また寝るんかい。














「なぁ、さん。」

「なに、」

「たまには女の子らしくせぇへんの?」


「ななな何を急に!」


「いや、どう見てもうるさいし、細かいのにがさつやんか。」

「死にたいんですかね、ぼん倉さんは。」


その後、放課後。
まさかのまさか、喧嘩を売られた、あたし。



「ちゃ、ちゃうねん!怒らすつもりは…!」

「傷付いた、深く傷付いた。」

「ごめんな、委員長。」





謝りつつ、あたしの前の席の子の椅子を借りて座る大倉くん。
下がった眉毛は殺人的にかわいい。




「許したろ、あたしは心が広いから。」

「なんか一言二言、余計やった、今の。」

「何も間違ったこと言うてへん。」




相変わらずかわいくないあたし。


と、そこらの男子に名前を呼ばれた大倉くん。
いつも一緒に帰ってるノブくん。



「あ、今日先帰ってー。委員長に用事あんねん。」







「…用事あんの?」

「おん、用事あんねん。」


「なんの用事?」

「とりあえず居眠りは許して。」

「それかい。」

「眠たいねん。」

「ちゃんと夜寝てる?」

「寝てる寝てる。11時から7時半くらいまでがっつり寝てる。」

「そら寝てるわ。」

「でも眠いねん。」






しょうもない用事に付き合わされて、でも、大倉くんと話すのは嫌いやない。







「実は今も眠いねん。」

「どないよ。」

「俺、寝なければ死んでしまう病やねんて。」

「そのボケ全然おもんない。」





別に恋愛対象なんて、どうでもいい。

喧嘩しても、からかわれても、面白がられても、うるさい言われても。
めちゃくちゃ悪く思われててもええ。

大倉くんと話すことさえできればあたしは満足で。







「俺、寝なければ死んでしまう病…」

「二回言う必要、一個もない。」


「師匠すみません。」

「ほらもっかいボケてみい。」

「俺、寝なければ…」

「もうええわ、」

「「ありがとうございました。」」







二人で、
二人きりの教室で、何の色気もない漫才やってるだけであたしは嬉しかった。

いつしか
彼女になれたら、なんて夢のような話。









「あっはっは、やっぱさんおもろいわー。」

「全然嬉しくない。」

「ええやん、おもろいの。」

「ええことないわ、こんなん女ちゃうやん。」


「あれ、何、意外と女扱いしてほしいんや?」






そう言われると、ドキリとして。
なんだかとても恥ずかしかった。

今さら、こんなあたしが女扱いだなんて。

望んでるなんて知られたら、顔から火ィ出るほど恥ずかしい。







「ち、ちがっ」

「かわいいで、さんは。」

「な、からかわんでよ!」

「からかってへんよ。」

「だって、あ、ありえへん。」

「確かに、ありえへんな。」
>
「なにそれっ」

「でも、顔赤くしてるとことか、結構ツボやねんけど。」







耳が熱い。
一気に顔の温度が上昇して、赤くなってるのは自分でもわかる。

かわいい、なんて言われたことなくて。
そんなの初めてで。

余裕な大倉くんの顔を見たら余計恥ずかしくて、悔しくて、でも、どこかで…嬉しい。







「ちょっとはかわいくなりいや。」

「そんな、っ。無理。」

「まぁ、十分かわいいけど。」

「うるさいっ!」

「また顔赤くなってる」

「やだ、もう」

「おもしろ。」


「おもしろくない!」




「大丈夫、すぐ女の子になるわ。」






と、手首を掴まれて
大倉くんの顔が近づく。

ぎゅっと目を瞑った。
手に力が入る。
体全体が強張る。




触れた唇と唇は優しくて、でも、それ以上は恥ずかしくて覚えてられない。






「かわいい」

「いやや…」

「体、力入りすぎ。」

「だって、」

「はじめて、なんやろ?」






見上げた顔。余裕綽々な表情。
ふわりと笑う口元。







「俺、委員長のこと好きやで。」










聞こえた言葉は嬉しくて恥ずかしくて信じられなくて。


「う、うそ、やろ?」

「うそちゃうよ」

「な、なんで」

「かわいい言うてるやんか。」

「あたしかわいくない、」


「かわいいから好きやないねん。好きやからかわいいねん。」


「な、にそれ。」

「まぁ、かわいいけど。」

「どこもかわいくない。」








「で?委員長は?」


「え、あ。…あたしも、」

「あたしも、何?」


「言わへん!絶対言わん!!」


「えー!!言うてや!」
















「あたしも大倉くんのこと、好き。」



ねぇ、大倉くん。

別に恋愛対象なんて、どうでもいい。
なんて嘘。

喧嘩しても、からかわれても、面白がられても、うるさい言われても。
めちゃくちゃ悪く思われててもええ。
なんて嘘。

大倉くんと話すことさえできればあたしは満足で。
なんて真っ赤な嘘。








「付き合お。」

「うんっ。」

「もっかいちゅーする?」

「や、そ、それは!」

「ふふ、かーわい。」

「うるさいっ」

「なぁ、さん。」









"って呼んでいい?"

耳元で囁かれたセリフ。



当たり前に決まってる。
答えはOK。

だって、
名字で呼ばれるだけで十分、なんて真っ赤な嘘なんだもの。








end.

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のらくらまい。







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