、濁る空。







会社のデスク。
一番端の席。


大きな窓から見える空には、暗雲が立ち込めていく。


彼は、ちらりと窓の外を見ると
ほんの少しだけ微笑んで、またデスクの上の画面に目をやる。






彼を目で追ううち、気付いたことは。
彼は雨が好きだ、と言うことだった。

実際に聞いたことはないのだけれど。






途端、雨が空気と地面を打つ音が響いて、外を見ると大雨。

私は、嫌い。

雨なんて気分が悪くなるし、仕事もはかどらない。

今日履いてきたお気に入りのパンプスだって、最近奮発して買ったバッグだって、きっと濡れてしまうんだろう。

今日はついてない。








ねえ、どうして。
彼はとても幸せそうなんだろうか。









時計を見ると8時を回っている。
もうそろそろきりの良いところで終わろう。

帰る前にコンビニに寄って雑誌と大好きな酎ハイを1本だけ買おう。


目の前のパソコンの電源を落とす。
少し伸びをして、脚を動かすとむくんで痛くなっていた。

最悪。








私が立ち上がると向こうで彼も立ち上がるのが見えた。

終わったのかな。


彼と同じ部署で働いてるとはいえ、あまり面識もなく中途半端に知り合い、な状態。

気まずいからあまり同じエレベーターには乗りたくないのに。






結局、同じエレベーターに乗ってしまった。
雨の音はまだ続く。最悪。









沈黙と気まずさに、私は傘を出そうとバッグを探る。

が、見つからない。

こんなときに限って、玄関に置いてきてしまったのだ。


はぁ、と溜め息ひとつ。









エレベーターのドアが開き、彼は私の先を降りる。

家の前のコンビニじゃなくて、会社に近いところに行って、傘買わなくちゃ。

もう少し会社が駅近だったらよかったのに。






フロントを出ると、より一層雨の音。
走るか、










と、

頭上に傘が差されたのはその瞬間で。





「入ってくか。駅までやろ?」
横を見ると彼が私を見ていた。
「は、はい。」











続いていたのは沈黙だった。
彼の趣味も好き嫌いもあまりよくわからない。

なにから話せばいいのか。





「雨、好きなんですか?」
口から出ていたのはそんな言葉で。

「え、あ。あぁ。うん。」
少し驚いたように彼は私を見る。




「なんで、好き、なんですか?」
「ん…せやな。」




「例えば。」
「…。」
「匂い、とか。」
「匂いですか?」

「あと、雨の落ちる音とか。」
「…。」




「ようわからんけど。」
「…。」

「雨やったら、こういう予想外の出来事が起こるやろ?」











「俺、お前のこと気になっててんけど。」













本当に雨は予想外なことが起こるらしい。

彼の持つ傘は揺れて、私の足元はすでに濡れてしまっていたし、最近買ったバッグだって、明日は使えなさそうなの。

なのに、














幸せ、だなんて。














「私も…」
「…」
「雨、好きになっちゃいました。」









end.

(c)mai NoraKura


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