遍く
ふと、隣。
移す視線。
いつも通り、私の横には貴方がいて。
「あ、それウマそうじゃん。ちょっとちょうだい。」
がやがやとざわめく大学の食堂、
貴方は私の頼んだオムライスを奪う。
「ちょっと!最後の一口…」
「すっげーウマっ。ごちそうさまでしたー!」
なんて無邪気に笑う貴方がかわいすぎて、
私は少し嫉妬してしまった。
和也に出会って2ヶ月。
ただ講義で席が隣になっただけなのに、いつのまにか私たちはずっと一緒。
ありがたいことに気に入って頂けたのでしょうか。
お昼の時間になると毎日のように「どこにいるの?」なんてメール。
私の大好きな時間。
お昼、貴方と食べる一時。
かといって
私の内に秘めた想いなんて、きっと和也はしらない。
友達なんて、
思ったことない。
出会ったその日から、貴方は私の恋愛対象で。
遍く、
貴方は私の心を犯す。
「今日お前、午後から講義あんの?」
「んーん、今日は昼まで。」
「バイトは?」
「入ってない。」
「じゃあ一緒に帰ろうぜ。」
こんなことも日常茶飯事で、
「ちょっと買い物付いてきてくんね?」
「うん、いいよ。」
周りから見れば、私たちは恋人同士に見えるんだろうか。
「で、何か欲しいもんあんの?」
「うんー、ちょっとねー。」
着いた先は南青山。
私は和也の一歩後ろを歩く。
「ふーん。」
そっけない返事をした私の目に映るのは、貴方の茶色い髪。
思わず触りたくなってしまった。
「ここ入ってい?」
立ち止まった和也はかわいい雑貨屋を指す。
「うん。かわいいお店だね。」
中に入ると外観もさながら、シンプルなのにどこか温かみのある店内。
「で、何欲しいの?結局。」
「女子って何がかわいいと思うわけ?」
質問に質問で返してくる和也。
なんだか胸が痛い。
「え、…。」
「あ、これとかどう?」
和也の手にはマリンテイストのかわいいネックレス
人に聞いたくせに自分で決めてしまう貴方は、女の子の趣味でもわかっているようにきらきらした目で私の顔を覗き込んだ。
「うん、かわいい。」
「じゃこれにしよ。」
レジに向かう貴方の背中。
遍く、私の胸は痛みを増す。
「じゃ、マジでありがと。」
「んーん、何もしてないし、私。」
「今日、ここまでしか送ってやれねーけどごめんな。」
「大丈夫。」
「じゃ、また明日な。」
「ばいばい」
「おー、ばいばい。」
夕方、少し暗くなる直前。
手を振り貴方の背中を見つめる。
苦手、この瞬間。
小さくなっていく背中に目を伏せる。
本当にどこか遠くへ行ってしまいそうで。
「ねぇ…待ってよ…。」
小さく呟く私の声。
到底貴方には届かない。
「大嫌い…」
なんで涙が出るんだろ。
「好き…、大好き…。」
ねぇ、どうして届かないんだろ。
「おい、何俯いてんだよ…」
「え…」
気がつけば貴方は目の前で、
「泣いてんじゃねーよ。」
泣き顔を見られた恥ずかしさに、上げた顔を再び伏せる。
「ごめ…」
「何が。」
「お願いっ…行かないで…」
ふいに吐いて出た言葉。
「好きなの、ずっと」
ずっと、ずっと、大好きなんだよ。
「俺も好きだよ。」
私の耳に届いたのは、思いもよらない和也の気持ちで。
「お前勝手に泣いて先に言ってんじゃねーよ。俺が言いたかったっつーの。」
急に抱きしめられて、私は声が出なくなってしまった。
「マジお前ばか。」
「うんっ…」
「ばかばかばーか」
「うん…」
「言い返せよ。ばか…。」
「ばかじゃな…
落ちてきたキスは
私の心を満たす、遍く。
「しょーがねーから送ってやるよ。」
「…ありがと」
触れた手と手。
ずっとこうしかった。
「幸せ…」
「もっと幸せにするから。」
帰り道、いつのまにか暗くなって。
遍く、手のぬくもりは全身を伝う。
「ねぇ、あのネックレス誰にあげるの?」
「姪っ子。」
「え?!」
「今日家に来んだよ、誕生日なの。」
「なんだ…ほんとばかじゃん、私。」
end.
2010.5/29
はじめまして、のらくらまいです。
駄文ですがこちらでお世話になりますのでDREAM CANDYファンのみなさま、どうぞよろしくお願いいたします。
遍く(あまねく)=及ばぬところが無く
(c)mai NoraKura
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