「傘、忘れたんですか?」
「え、あ、はい。」
「これ使います?」
「え、そ、そんな!」
「遠慮せんでええから。」



6月、梅雨入り。
いつ雨が降ってもおかしくない季節。

こんな時期にまさかのまさか、
傘を忘れたあたしは下駄箱で立ち竦んでいた。



「それいつでもいいんで、そこの傘立て入れといてください。」



そんなとき現れた、背の高くて小顔な茶髪の男の子。


「あ、ありがとう!」


お礼もまともに言わせず、雨の中駆けてった男の子。














『疑問1。なんで相合い傘しなかったの。』
「いや、折りたたみ傘でも持ってたんかなぁ、と。」

『疑問2。何故に追いかけなかった。』
「いや、彼背が高くて、足長すぎてなかなか追いつけなくて。」

『ふーん。で、疑問3。彼の名前、学年クラスは?』
「…しりません」

『普通聞くやろー!』
「そんなん知らんわー。」


翌日、そのことを友達に話すとなんだか大騒ぎ。


友達曰わく
『顔も性格も男前とかどないよ』
らしくて。

「そんな人、この高校におるねんなー。」
『なぁ、びっくりやわ。』

「しゅっとしすぎや。」





『にしても、雨の中ひとりで帰すか?いくら男の子とはいえ!』

「すみません。」

何故か彼女がご立腹




『で、的にはどうなの?』
「なにが?」
『彼のこともっと知りたい、とか』
「んー…。」
『別にって感じ?』
「いや、まぁ、知れたらいいよね。」

確かに、ちょっとは気になる存在。













移動教室のときだとか、休み時間だとか、たまに辺りや窓の向こうを見たりして、彼を探してみるものの、それから出会う気配は一向になく。

(…お礼ちゃんといいたかったな。)

いつの間にか友達も彼の存在など忘れていた。










そんなある日。
天気予報ではもうすぐ梅雨明け。
土砂降りの雨なのにまた傘を忘れたあたし。


梅雨明けって聞いたから持ってこなかったのに。
まぁ"もうすぐ"言うてたし、早とちりしたのはあたしなんやけど。



「ちょっと、これ降りすぎやろ…」
空からは大量の雨で。
「帰られへん。」




「傘、忘れたんですか?」
と後ろから聞こえてきたのは
「あ…あのときの。」
あの人の声で。

「どうも。」
「この前はありがとうございます。」
「いえいえ、」
「で、」
「で?」


「良かったら傘、入れてくれませんか?」

図々しくも頼むと
「大歓迎やで。」
なんて。




「はい、どうぞ。」
「ありがとうございます。」
「いえいえ、」

彼が傘を差して、その中で寄り添う。
傘が水をはじく音が少しうるさかった。

久々の相合い傘。
少しこっぱずかしい。






「この前大丈夫やったんですか?」
「ん?何が?」
「濡れて帰ってたから。」

「あ、あぁ。なんかな、かっこつけてしまって。ほんまは傘、かばん入ってて。」

「えー!!」
「後から差したから大丈夫。」
「めっちゃ心配したんですけど」


ふふふ、と含み笑いをする彼。
意外とかわいらしい。


「あ、そういえば」
「はい?」
「敬語やなくていいですよ。先輩。」
「へ?」




「俺、一個下なんです。」
「そうなん。」
「うん、そうなん。」
「…大人っぽいなぁ」
「先輩、子供っぽいもん」


あははと今度は大笑いで。



「俺、大倉。大倉忠義。」
「おおくらただよしくん。」
「そうそう。」




「実は先輩のこと好きなんです。」
「へえー。」
「そうそう。」
「ってええっ!!」
「あっはっはっ」

突然の告白に驚くあたし。
驚くあたしに大爆笑の彼。




「あー、あかん、おもろい。」
「失礼な!」





「ずっと気になっててん。ほしたらあの日先輩、傘忘れたみたいやから」

チャンスやと思って、と
急に大人っぽくて柔らかい表情をするから。

思わずどきっとして。




「先輩、お友達になりましょ。」
「うん、いいよ。」
「やった。」




ほんまは彼に会えると思って、傘を忘れたのは一生の秘密にしておこうかな。





end.
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(c)のらくらまい

久しぶりにTOKIOさんの雨傘を聴いて書いてみました。まぁ歌詞との関連性は全くなしで。

一応ドラマやってた大倉くんをお相手に学生設定で作りましたが、駄文申し訳ないです。

あたしやったらいくら男前でも、いきなり付き合うのは考えられへんから友達から設定にしてみました。

あとのストーリーはご想像にお任せします。



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