11-








とん、とん、と。
ボールの音が響く体育館。

バスケ部マネージャーのあたしは壁にもたれて、メンバーの様子を見ていた。





最近は1年の大倉がめきめきと力を上げ、パスもどんどん回している。

一方2年の錦戸は練習に飽きたのか隣のバレー部マネージャーと仲良くおしゃべり。


キャプテン、3年の横山は相変わらずバスケに対しては情熱的で。

「ナイスシュート!」

気持ちいい音でシュートを決めていく。






時計を確認し、ホイッスルを吹いた。
「はーい!休憩!」
















「お疲れ、」

「おー、ありがとう。」


スポーツドリンクを手渡すと横山はあたしの隣に座る。
そして話をするのが日課。


「今日の俺どやった?」

「相変わらずいいシュートでしたよ。」

「あ、ほんま?」

「でもちょっと膝痛めてる?」

「わかる?」

「うん、いつもと違う。庇ってる。」

「さすがお前はよう気付くわ。」




そんなの当たり前。
中学、高校とずっと横山のプレーを見てきたのだ。

自分自身バスケ部やったこともあるし、一応役に立てるように努力は続けてきたつもり。





「もーすぐ最後の試合やなぁ…」

横山が小さく呟く。
3年になってからは引退まであっという間。


「がんばろうね」

「当たり前やろ」

「横山なら大丈夫。」

「ありがと。」


「とりあえずキャプテンとして錦戸に喝入れてきて。あのこほんまは上手いんやから。」

「血気盛んやなぁ。女に夢中やん。」

「まぁね。錦戸モテるから。」

「え、そうなん?!」

「そら男前でバスケ上手くて男前やったら…なぁ?」

「なんで男前2回言うたん。」


「そこいっちゃん重要やろ。」





横山はバスケ一筋。
あたしもバスケ一筋、だった。

いつの間にかバスケ一筋な横山に一筋になっているのはここだけの秘密。




「俺も男前やん…」

「寝言は寝て言え。」

「うわ、酷い。」

「何を今更。」

「なんで俺モテへんのやろー」




なんて言ったって、
秘密にしようとしまいと、横山の鈍感さは異常なもので。




「大学入ったら彼女欲しいな…」




そんなこと言うたら立候補者が殺到しますよ、横山さん。














それから、
季節が過ぎるのは早いもので、最後の試合はあっという間に負けで終わってしまった。

「せんぱいっ…」

「錦戸泣きなや、」

「俺があっこでミスせんかったら」

「後悔しても意味ないやろ?」

「だって、」

「また次の試合がんばったらええねん」

「ちゃうやん!先輩引退やんか!」

「ええねん、俺は。」

「…」

「バスケやってて良かったわ、ほんまに。」




自分のミス、と泣く錦戸。
そんな彼を優しくなだめる横山を見てると、なんだかちょっとは大人になったなと思う。







「「「ありがとうございました!」」」

「また遊びにくるわ。」

そう言ってみんなに笑顔を向ける横山はちょっと涙ぐんでて。


「うー…」

「何泣いとん。」

「横山も泣いてるやんかー」

「あほか俺は泣いてへんわ。」


もらい泣きしたあたしと3年全員は遂にバスケ部を引退した。














「寂しいなぁ…」

「お前まだ言うてんのか。」

「当たり前やんか。」

「やっといっぱい遊べるなー」

「そんなん言うてる間にすぐ勉強やー勉強やー唸り始めるで。」

「お前それを言うな。勉強は禁句じゃ。」





ふたりで荷物を取りに教室に帰る。
夕日が差し込む廊下。





「バスケほんまに楽しかったなぁ…」

そう呟く横山はどこか寂しそう。


「今までできひんかったことたくさんして、楽しいこと増やすんもええんちゃう?」

「それもありやな。」

「うん。」




「お前は、なんかしたいことあんの?」


教室につくと横山が自分の席に向かう。
あたしも自分の席で荷物をまとめる。


「あたしー?なんやろ、」

「例えば、」

「例えば?」

「恋愛、とかさ。」




思わぬ言葉が横山の口から飛び出したもんやから、あたしはびっくりして教科書を落とす。


「な、なに言うてんの。」

「たっ、例えば言うたやんけ!」



「例えばにしても他にあるやんか!」

「せやけど、ほら、錦戸思い出したらそんなんもありかな、って」

「ま、そか…。」




「で、どうなん?」

「え?」

「恋愛は?」




落とした教科書を拾う。
ドキドキしてんのと、目が泳いでしまっているのに気付かれたくなくて、あたしは横山に背を向けた。





「恋愛、ええと、思うで。」

「なんやそれ」



「そっ、急に言われたってわからんわ!」



思わず振り向いてしまった。
ね、顔、熱いよ。




「お前、顔真っ赤。」


「う、」

「好きなやつとか、おんの?」


「え、う」


「ちゃんと返事せえや。」




ずっとお互い信頼してきた仲やんけ、と横山はぼそり。

なんかそれ、嬉しくない。






「横山にとって、あたしは仲間?」

「は?」

「信頼できる部活のパートナー?」

「え?あ、…まぁ、そうやけど。」


「あたしはっ…」

「……」





手に力が籠もる。
あかん、言われへん。





「あたしは…」

「………」

「…………」

「なぁ、あのさ…自惚れてええの?」

「なに、それ。」

「いや、わからんけど、」

「…」

「自惚れ、って言うか…」

「なに…」

「あー、もう、わからん!」

「何が…」






「俺は!お前のことが!好きや!」







そんな大声出さなくなって、聞こえるのに。

「お前は…そのっ…俺のこと、好き…」

「…」

「やん、な…?」


あたしも横山も
手がグーになってて、お揃いで、なんだか、愛しくて。



「好き、だよ。」




ねぇ、涙が出そうなんだ。










「横山…」

「…恥ずかしっ」

「ふふっ」

「なにわろてんねん」

「だって、」

横山がかわいすぎるんやもん。









「ちゅー、とか、して、ええ?」

横山があたしを優しく抱きしめる。
腕、震えてるよ。

「うん、して。」

心臓の音聞こえてない?
すごくうるさくて横山の声も聞こえなくなりそうやの。




「ん、」

「ん…」


初めてのキスは優しくて。


「横山…恥ずかしい、かも。」

「俺も、恥ずかしいわ」


キスしてわかったのは、
横山が意外とかわいいこととか。

やっぱり背が高いこととか。
心臓の音が大きいこととか。






「ね、もっかいだけ。」





そっと唇を重ねる。
夕日がふたりを照らす。







「好き、やで。」

「あたしも、好き。」

「帰ろ、っか。」

「うん。」




手を繋いだ横山の右手は汗をかいてる。
緊張したのかな、なんて。
あたしの手もあったかいでしょ?






「やっぱり、バスケしとって良かったわ。」

「なんで?」

「お前のこと、好きになれたから。」






ふたりの純度は限りなく100%に近い。





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のらくらまい


11-9 (eleven nine)
→99.999999999

9が11続くこと。極めて純度が高いことを示す言葉。

タイトルから連想し、うぶな恋をテーマに横山さんにとっても主人公にとっても初めての恋、恋愛、キスを表現してみました。

恋愛場面が少なくてごめんなさい。

ちなみに eleven nine と言う言葉や 99.999999999 と言う数字はありますが 11-9 はのらくらが考えたものですので実際には存在しません。お気をつけください。


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